中高一貫校からの高校留学その1.遅くとも高校で留学を体験すること
こんにちは、ワーキングマザーのための受験留学アドバイザー・喜連川綾乃です。
「遅くとも高校で留学を体験すること」というのは私の人生そのものの教育方針です。
手探りで失敗しながらも一人息子の難関ボーディングスクールへの留学を実現しました。中学受験を突破した中高一貫進学校生には、留学にぜひ挑戦していただきたいと思っています。
ティーンエイジャーでの留学体験
純ジャパの息子が高校留学した結果
いわゆる「純ジャパ」(日本生まれ日本育ち)の息子は、高校1年生から約1年間、アメリカの私立高校のボーディングスクール1に留学しました。
留学した結果はどうなったのでしょうか?
ボーディングスクールに別れを告げ、開成高校に2年生2学期で復学しました。懐かしい黒ボタンとペン剣の学ランにふたたび袖を通します。勉強にブランクによる支障は特になく、英語力は何もしなくても開成トップレベルになっていました。周囲からは「開成の先生より英語ができる」と言われたようです。
将来の大学進学については、意外に海外大学一択でもなく、東京大学を受験したいと言います。それは決して楽な道ではありません。東大受験となると文系でも共通テストで5教科7科目、2次試験で数学をこなさなければいけないのです。元々苦手な数学が息子には重荷でした。しかしパーフェクトな域に達した英語については勉強する必要はありませんでした。英語の配点比重の重さを考えると、相当に有利で、「普通なら落ちることはない」と先生に言われました。
最終的には息子が東大を受験することはありませんでした。12/15発表のアーリーディシジョン(早期専願)で第一志望校のアイビーリーグに合格したからです。合格直後に受け取った入学審査官からのコングラチュレーションレターには「開成とアメリカの高校での経験を本校でぜひ活かしてほしい」という一文が手書きで特別に書き入れられていました。
大学の入学審査官は日本を含むアジア地域の選考枠の中で審査し、他の出願者と比較します。アメリカの知名度のあるボーディングスクールで良い成績を修めたことがアメリカ人審査官に安心感を与え、合格の決め手のひとつになったようです。
一般的に英語の習得時期は早ければ早いほど有利といわれています。「遅くとも高校で留学を体験すること」というのは私のこだわりの教育方針で、中学受験や大学受験に勝るとも劣らない最重要事項です。世界基準で恥ずかしい思いをしなくても済む英語力を身につけることが私の悲願でした。そのためにはティーンエイジャーの内に留学することが最低限必要かつ現実的な方策だと思っています。
早期留学の大切さ
昔、私が働き始めた頃の昭和末期から平成の時代には、自分も含め英語を自在に操れる日本人は稀有でした。いつも英語が悩みの種、コンプレックスの元になります。私の上司の世代になると、せいぜい大学留学の経験者が貴重な存在でした。「能力的にはたいしたことないけど、あの世代であれだけ英語ができる人はいないんだよ」と言われて厚遇されていました。
私が垣間見た一流企業からアメリカのビジネススクールへ派遣されていた優秀なエリートたちも、英語よりも頭脳勝負がメインであり、仕方なくクラスディスカッションに参加する有様です。そうした中で高校時代に留学したことのあるビジネススクール生は比較的快適に過ごしていることが印象的でした。帰国子女やインターナショナルスクール出身者でない限り、高校時代までに留学することが、英語の運用能力上、最低限必要だと気づいたのです。
日本の学校教育でも英語の4技能のスキルアップが目指されていますが、国際会議の場で通訳なしでもコミュニケーションができるグローバルリーダーを目指すには不十分と言わざるを得ません。息子にしても自身では英語が完璧とは感じていないようで、高校留学経験だけでも十分ではないと言えます。しかしアイビーリーグ大学でも実力勝負なら認めてもらえる域に到達しているようです。
中高一貫進学校生のTOEFL水準
一定レベルの留学を志した場合、TOEFLの受験が必要になります。TOEFLは英語学習初心者の前に立ちはだかるハードルの高い試験です。中学受験期間は何もできませんので、一般的には中学入学後に実質ゼロから英語の勉強を開始することになろうかと思います。日本の中学校の教科書内容ではTOEFLの試験には太刀打ちできません。息子の場合、留学準備を開始した中学2年生の初期には、TOEFLを受験することすら難しいと思われる状況でした。
ボーディングスクールを例にとると、The Ten Schools(テンスクールズ)というトップ10スクールを受験するには、TOEFL100点超は必須で105点程度が必要です。つまり英語力がパーフェクトである必要があります。現地訪問した中堅校でもTOEFL必要スコアを尋ねると、「留学生の平均は90点から100点くらい」と軽く言われます。
「TOEFL100点」というのは、海外大学進学を目指す高校生レベルです。東京の名門中学出身かつ帰国子女という最強プロフィールの留学生でも、中学3年生の出願時には100点に届かなかった、という経験談を聞きました。
日本の中学校の普通のカリキュラムの場合、中学2年生から本格的に準備を始めて、中学3年生の1月出願時にTOEFLを100点まで伸ばすのはまず至難の業です。中学生で80点に届けば殊勲賞ものです。
中高一貫校生がボーディングスクール上位校に合格するには
ボーディングスクール上位校に、日本の純ジャパ中高一貫校生は手が届かないのでしょうか?そんなことはありません。10スクールの次のレベルの難関校にTOEFL70点で合格した日本人生徒もいますし、息子はTOEFL81点で難関校に合格できました。学校により、留学生に対するスタンスが異なるのです。学校選びにおいて各校の日本人生徒の採用意向をよく見極める必要があります。
難関校であっても入学審査の責任者に日本人生徒を受け入れる意向があれば、たとえTOEFLが80点そこそこでもチャンスがあります。学校側は生徒の国際的な多様性を重視しており、日本人候補者は少ないため良い生徒なら来てほしいと考えています。
留学生に理解ある審査官にとっても、校内審査会で正式に推薦するために、TOEFL80点は欲しい水準になります。私は実際に審査官との面接時に、「80点をぜひクリアして出願してほしい」と言われました。また、日本人コンサルタントからは90点ならベターと言われました。
率直に言って、多くの純ジャパ日本人中学生にとってTOEFL70点超えはかなり高い目標になります。難関校でなくとも留学する価値のあるボーディングスクールはたくさんあります。息子の留学を決める時にもTOEFLが伸び悩んだ場合には妥協せず留学しない方がよいのかと悩みました。結果として、息子にはTOEFLミニマムスコアが高くない「セーフティスクール」、いわゆる「滑り止め校」も吟味して出願を決めました。そうした学校が日本人生徒を手厚く受け入れている体制や、日本人中高一貫校からの留学生が実に楽しそうに満足して過ごしていることが確認できたからです。
日本の中高一貫進学校生にとっての賢いボーディングスクール受験戦略をまとめました。
- TOEFL90点を目指してできるところまで頑張り、自分にとってベストスコアをとること(留学後に備えて最後まで勉強することが大事)
- 日本人留学生受け入れ実績があり、受け入れに前向きな、質の良いボーディングスクールを選ぶこと(日本人在校生がいるか、東京で面接を行うか、などを確認)
- 自分に合う学校、行きたいと思える学校を決めること
中学受験経験者にこそ留学して欲しい
その後の人生に得難い英語力と経験を積めること
私は日本の優秀な中高一貫進学校生に早い段階で留学を体験して欲しいと願ってやみません。厳しい中学受験を経験し、中学で高校範囲まで数学などの先取学習をした日本の中高一貫進学校生の学力なら、留学で実力を発揮し、成長が期待できるからです。
中学受験を突破し、中高一貫進学校で勉強した基礎学力があれば、留学先で多少英語に苦労しても本人の意思と努力で克服し、有意義な学校生活を送れると信じています。その後の人生に得難い英語力と経験を積めるはずです。
実際には、「御三家」と言われる東京の中高一貫校では海外大学進学者は少なく、高校での留学となると限定的でしょう。海外大学進学を推進する開成にしても、高校留学する生徒を息子以外に知りません。中高一貫校の場合、高校受験が不要で6年間を思い切り楽しめることが一つの長所です。また、大学受験への影響を考えると心配もあるでしょう。
しかし、息子の例では大学受験で不利にはなりませんでした。また、自分の人生を長い目で見た場合、「行ってよかった」と思っているようです。
中学受験の経験はアメリカの学校進学で強味を発揮
アメリカの学校受験に有利
中学受験の経験はアメリカの高等教育の受験に有利に働きます。受験算数はアメリカの私立高校共通標準テストSSATのMATHセクションに似ているため、満点を狙えます。ちなみに息子は、算数も数学も得意ではなかったにもかかわらず、SSATだけでなく、アメリカの大学受験の標準テストSATのMATHセクションも満点でした。
中学受験を通過して、日本の中高一貫進学校できちんと勉強していればアメリカの標準テストの論理的思考力を問うセクションで満点獲得が可能となるということだと思います。
基礎学力が備わっていることの大切さ
留学には英語力だけでなく基礎学力が不可欠です。アメリカの高校受験ではTOEFLの点数が優先ですが、英語力だけでは総合的によい成績を修めることは難しいでしょう。アメリカの大学受験には高校時代に良い成績をとっていることが絶対条件ですから、先々に影響を及ぼします。
中高一貫進学校では先取学習で中学校のうちに高校範囲まで学習しますから、その成果で留学先でもでよい成績が期待できるのです。
繰り返しになりますが、息子の場合、中学受験で算数に苦労しましたし、開成中学でも数学は決して得意ではなく、どちらかというと落ちこぼれないようにしていました。それでもアメリカのボーディングスクールに入学すると、数学は通常より上のオナークラスに入りよい成績を修めました。英語が出来るだけではそうは行きません。
留学生はかなりホームシックに苦しみ、途中で挫折することがあります。この背景には英語力や本人の意思の問題もありますが、総合的な学力不足が隠れていると思います。「留学しなければよかった」という事態になるかも知れません。
留学生に理解ある学校なら、当初英語が流暢でなくとも、素質のいい日本人留学生は品行方正で勤勉、ポテンシャルがあることを知っており、手間暇を惜しまず支援してくれます。
基礎学力さえあれば、本人の意欲で何とかやっていけるはずです。
- 「ボーディングスクール」とは
「ボーディング(boarding)」は「寄宿」を意味し、文字通り翻訳すれば「寄宿学校」となります。アメリカでは良家の子弟が親元を離れて寮生活を送りながら難関大学への進学を目指す教育機関ととらえられます。一定の規律のもと、勉強やスポーツ、課外活動に切磋琢磨しながら励み、生活面を含む手厚い指導を受けます。 ↩︎