母が見た開成中学・開成高校その1
あけましておめでとうございます。受験留学アドバイザーの喜連川綾乃です。
お正月は中学受験生にとって、出願校を最終決定する時期に重なります。当時の私自身を思い出しても、息子の開成中学合格のために心身ともに全力疾走しているような感覚がありました。同様に渦中である親御様の心境をお察しします。
でも、頑張る価値はあります!!私も苦しかったけれども乗り切りました。
中高6年間を過ごす学校という場所がお子様に与える影響は想像以上に大きいのです。(ということが後で分かったとも言えます。)ましてや開成中学・開成高校に進学するということは、お子様の人生にかなりなインパクトを与えるはずです。
今回は、開成中学を目指す皆さまへのメッセージとして、「開成中学・開成高校がどういうところか」について、母である私の視点から綴ってみたいと思います。
開成中学合格の瞬間
受験番号は381番(ザンパイ)
忘れもしない開成中学の合格発表の日。
開成中学のある西日暮里にたどり着くまで、恐怖心でいっぱいでした。一方、受験のためにできる限りのことをやった、これ以上はできなかった、という心の支えはありました。
これで落ちたら「人間業」では受からないということだ、と。
合格発表時刻である13時より前なのに、唐突に掲示が始まりました。あちこちでどよめきが湧き起こります。必死で受験番号を順番にたどってゆくと……視界に息子の受験番号、381番が飛び込んできました。
本当に息子は合格したのです。その瞬間、涙が込み上げました。
開成に入ってから気づいたこと
開成はどんな学校か?
実際に入学してみてから、つくづく開成のことを知らなかったことに気づきます。長い歴史と伝統で培われた開成には独自の文化があり、外部からはなかなかわからないものであると思います。開成生の母として見聞きしていると、中途半端なものがなくて突き抜けたトップレベルのものに日常的に触れることができる、ということを折々に感じました。
私立の中高一貫校の中では、開成は子供たちを大学受験に向けて指導してくれる学校という位置付けではありません。思春期の男の子たちが情熱を傾け、我を忘れて取り組み、生涯の思い出や誇りとする価値のある舞台・仕掛けを提供してくれるインキュベーターのような場所だと感じています。長い歴史で磨き抜かれたその場所には、成績の良し悪しに関係なく、男の子たちが好きなことに打ち込める懐の深さがあります。
「3つのない」― 勉強しない・教えない・好きなことしかしない
入学して最初に驚くのは、開成生は「勉強しない」、教師も「教えない」、さらに子供たちは「好きなことしかしない」、と三拍子揃っていることです。学期ごとの保護者会でお母さんたちと話すと心配ごとの相談になり、子供たちはクラブ活動ばかりやって本当に勉強しない、先生たちも特に何もしてくれないわね、と話します。
当時の校長だった柳沢幸雄先生が保護者向けにビデオメッセージを出していました。こんなやりとりがありましたのでご紹介します。
うちの子は部活ばっかりやって家に帰ってくると疲れて寝てばかり。
ちっとも勉強しないんですが大丈夫でしょうか?
A柳沢先生の回答
「効率よく時間を使う」ということが大事なんです。
好きな事に没頭して、限られた時間を寝たりするのも時間の有効活用だと思いますよ。
開成の先生方は大学受験のために何かを教えることはしません。どちらかというと、小手先のことよりも基礎を大切に、自分なりに教えたいことを追求します。開成出身者も多く、自由で個性的な方ばかりです。生徒たちも先生のことを「どこかスゴい」と尊敬しているようです。授業は教師個人の裁量にゆだねられたプリント教材で自由に展開されます。たまに教材を見ると落語の勉強をしていたりして、「これは一体何の勉強だろう?」と思うようなものがありました。
子供たちは元々が個性的なのか、開成に入って個性に拍車がかかるのか、尖った個性に磨きがかかります。先生方も落第さえしなければ勉強しろとは言わないため、ますます好きなことしかしないようになります。これには先生たちもあきらめているようでした。自分の好きなことを実現するためには目の色を変えて取り組みます。例えば、サマースクールに行くための資金をクラウドファンディングで集めて実現した開成生もいました。
世界トップクラスのものが身近にある
グローバルな超一流基準に触れること
私が開成でとりわけよかったと思ったことは、世界トップクラスのもの、超一流の人材にそこかしこで触れることができることです。
例えば、息子が中学1年の時、学生服のポケットから英文プリントが出てきました。それはスティーブ・ジョブズのあの有名なスタンフォード大学卒業式でのスピーチ文「ステイ・ハングリー、ステイ・フーリッシュ」でした。
「ハングリーであれ。愚か者であれ」 ジョブズ氏スピーチ全訳 – 日本経済新聞https://www.nikkei.com/article/DGXZZO35455660Y1A001C1000000/
「これはどうしたの?」と聞くと、「廊下で拾った」と言います。こんなものに身近に触れていて、それが廊下に落ちている環境ということに感動しました。
また、私が憧れていたアメリカのトップボーディングスクールのチョート・ローズマリー・ホール(Choate Rosemary Hall)やフィリップス・エクセター・アカデミー(Phillips Exeter Academy)の名前を、まさか日本の中学校で頻繁に聞こうとは思いませんでした。
チョート・ローズマリー・ホールには村田日米奨学金The Murata US-Japan Scholars Program – Choate Rosemary Hall | Private Boarding & Day School(https://www.choate.edu/admission/tuition-and-financial-aid/murata)で選ばれた開成生がよく留学しています。夏にはフィリップス・エクセター・アカデミーの生徒を開成生の家庭がホームステイで受け入れています。生徒たちは夏休みにはこうしたトップスクールのサマースクールに参加していきます。
海外トップ大学への合格者数の目覚ましい伸びの背景
最近の開成生における世界トップクラスの海外大学への合格・進学者数の伸びは目覚ましく、ハーバード、イエールなどのアイビーリーグへほぼ毎年合格者を出しています。2022年にはスタンフォード大学への合格者が出ました。世界レベルで評価される才能ある人材に囲まれていることを実感できます。
なぜこのような世界トップクラスの大学への合格者数が増えたのでしょうか?
海外大学進学が身近な選択肢になったこと
合格者増加の理由は、単純に留学を目指す開成生が多くなったことにあります。2011年に就任した前校長の柳沢先生の功績といえます。ご自身もハーバードの教員時代にベストティーチャーに選ばれた経歴の持ち主です。
柳沢先生の時代に海外留学を支援する仕組みが作られました。インターナショナルコースなどの特別カリキュラムやプログラムがあるわけではありません。開成生の中に東大一辺倒でなく、海外大学進学が選択肢の一つとして定着するという土壌の変化が起こりました。卒業生の留学体験談や在校生のサマースクール体験談を発表するカレッジフェアが頻繁に開催され、イエール大学、シカゴ大学などの世界トップクラスの大学が毎年来校して説明会を行っています。尊敬する先輩たちが果敢に留学した実績で、海外大学進学が身近に感じられるようになっていったのです。
海外大学進学への奨学金の充実
さらに後押しになっているのが、海外大学進学への奨学金の充実です。例えばアメリカの私立大学の場合、授業料と生活費だけで年間8万ドル程度かかる例があります。進学するためには奨学金受給を前提とせざるを得ません。開成からの海外大学進学者は、ほとんど何らかの奨学金を獲得していると思います。
例えば、柳井正財団では「奨学金支給対象大学」への進学者に対して学費や生活費をまかなえる(上限あり)返済不要の給付型奨学金を支給しています。
応募要項 | 柳井正財団 海外奨学金プログラム(https://www.yanaitadashi-foundation.or.jp/about/)
開成は柳井正財団の奨学金への学校推薦の指定校になっています。留学準備は開成らしく個人任せですが、学校側も奨学金制度を生徒によく周知しています。生徒も自分の夢の実現のために奨学金獲得をしようと自助努力します。
開成は楽しむところ
「今の開成を1年離れることはもったいなさすぎる」
開成に入ったために勉強に身が入るようになったという話は聞いたことがありません。むしろ、開成はその生徒なりに楽しむところです。開成は中1から高3まで縦割で運動会や文化祭を運営するため、先輩後輩の関係が非常に強い縦社会です。
息子は運動会でお世話になった先輩を尊敬し続け、ずっと年賀状を出し続けています。先輩からの返信には、「開成生活を楽しんでくれ!」と必ず書かれていました。息子が高校時代に1年間留学する時には、「僕はこのままなら運動会記録委員会委員長になれたのに」と言って、開成を1年離れることを非常に悔しがりました。また、親友からは、「今の開成を1年離れることはもったいなさすぎる」と言われました。
子供たちが心から開成生活を楽しんでいる様子を見て、保護者の大半は、何のかんの言いながらも息子を開成に入れてよかった、と思うのです。